上越市
株式会社 岩の原葡萄園
製造部 部長 今井 圭介
上越市で1890年(明治23年)に開設された岩の原葡萄園。日本のワインぶどうの父と称される川上善兵衛によって創業され、130年以上にわたりこの地でワインづくりを続けてきました。時代の変化に合わせて柔軟に進化してきたものと、長い年月を経てもなお大切に守り続けてきたもの。その両方の積み重ねが、地域に根ざし、長く愛される味わいを生み出しています。
ワインづくりには決して適しているとは言えない風土の中で、なぜ挑戦を続けてきたのか。新潟の食文化とどのように向き合い、その魅力をワインとして表現しているのか。今回は、岩の原葡萄園の歩みと、日本ワインに込められた想いについてお話を伺いました。
地域課題の解決から始まった、新潟でのワインづくり
なぜ「新潟」という地でワインづくりを始めたのでしょうか。
まず大前提として、創業者である川上善兵衛(かわかみ ぜんべえ)は地元の大地主の6代目で、本来であれば自ら事業を興さなくても十分に生きていける立場にありました。ただ、その中で地域の課題に目を向けていた人物でもあります。
当時、家業である米づくりは一年を通して仕事があるわけではなく、冬になると働き手は出稼ぎに行かざるを得ませんでした。その結果、家族が離れ離れで暮らすのが当たり前になっていたんです。また、貧しい生活を送る人も多く、そういった状況を何とかしたいという想いが、出発点にあったと聞いています。
ただ、最初からワインづくりを考えていたわけではありません。いくつかの選択肢を検討する中で、「どうせやるなら日本でまだ誰もやっていないことをやりたい」と考えたそうです。そんな中で、勝海舟からワインづくりを勧められたことも、一つのきっかけになったとされています。
ワインづくりであれば一年を通して仕事が生まれ、冬の出稼ぎを減らすことにもつながる。そうした背景もあって、地元・新潟でワインづくりに挑戦する決断に至りました。
当時「ワインづくりに不向きな気候や風土」と言われていた新潟で挑戦した背景には、どのような想いがあったのでしょうか。
前段でお話しした通り、川上善兵衛にとっての出発点は、あくまで社会課題の解決でした。なので、最初から新潟の気候や風土がワインづくりに不向きだという認識があったわけではないと思います。
とにかく目的を果たすために挑戦しようという想いが強く、ワインづくりを進めていく中で「この土地では難しいのかもしれない」と気付いていきました。その都度、何が課題なのか、どうすれば乗り越えられるのかを考えながら、試行錯誤を重ねてきたと聞いています。
当時の日本にはワインづくりの前例がなかったため、はじめは海外品種のぶどうを使って挑戦していましたが、なかなかうまくいきませんでした。そこで、日本の気候に合う品種をつくるために、品種交配をして新たなぶどう品種を生み出すことを決意したそうです。
実際に商品として市場に受け入れられるようになるまでには、創業から30年ほどの年月がかかったと言われています。地元の産業として根付かせるためには、単に“つくりたいワイン”を追求するだけでなく、市場やライフスタイルといった時代の流れに合わせていくことも重要だったのだと思います。
人の手で磨き上げる、ちょうどいい美味しさのバランス
100年以上の歴史の中で、変えてきたこと・変えていないことは何ですか。
そうですね、変えていないこととして挙げるなら、「チャレンジスピリッツ」だと思います。豪雪地帯であるこの地域は、もともとワインづくりに適した環境とは言えません。だからこそ、現状に満足してしまうと続けていくことは難しくて、常に挑戦し続けることが必要なんです。
その中で、変えていくべきことはしっかり見極めながら、時代に合わせて柔軟に変えてきました。チャレンジの中で「何を変えるべきか」を考え続けてきた、という感覚に近いかもしれません。特に意識しているのは、時代に合ったワインを提供していくことです。お客様のニーズに応えていくために、社員一人ひとりが日頃からさまざまなワインを飲み、味覚のアップデートを行っています。日本産だけでなく海外産のワインにも触れることで、視野を広げることも大切にしています。
岩の原葡萄園としては、いわゆる「伝統の味を守る」というよりも、時代やニーズに合わせて変化していくスタイルをとっています。マインドやベースの部分も含めて、お客様の一歩先をいく提案をすることで、新しい発見を届けていきたいと考えています。
それはワインそのものだけでなく、ワインと一緒に楽しむ体験も含めての話です。食との組み合わせはもちろん、これまでにはアウトドアブランドとコラボレーションし、“アウトドア×ワイン”といった新しい楽しみ方を提案してきました。
数ある日本ワインの中で、岩の原葡萄園の強みや個性はどこにありますか。
正直なところ、醸造方法そのものに大きな差があるわけではありません。私たちは「製法で差をつける」というよりも、自分たちが表現したい味わいに対して、どの方法が最適なのかを見極めることを大切にしています。
その中で軸にしているのが、「バランス重視」のワインづくりです。現在は主に日本国内に向けた商品展開をしているため、日本の食卓に自然と寄り添えること、食事と一緒に楽しんだときにちょうどいいと感じてもらえるバランスを常に意識しています。
また、私たちのワインづくりは基本的に手作業で行っているため、細かな部分まで気を配りながらコントロールできるのも特徴です。ワインの味わいは香りや渋みだけで決まるものではなく、さまざまな要素が複雑に関係しています。
手作業である以上、どうしても作業者によって、ちょっとした違いが出る可能性があります。だからこその違いをどうコントロールしていくか、人の力も含めて品質をつくっていくことが重要になります。
あえて個性を強く出しすぎるのではなく、誰が飲んでも「美味しい」と感じてもらえること。そのためのバランスを追求し続けていることが、私たちの強みだと思っています。
郷土料理と楽しむワインの魅力と、最初に選びたい一本
新潟の食文化との相性について、どのように捉えていますか。
そもそも、つくり手が日本人である以上、日本人のライフスタイルや食文化には自然と合うワインになっていると思っています。これは新潟に限らず、その土地で生まれ育った人がつくるからこそ、結果的に郷土料理と合うようになっていくものだと思います。
実際にある国のワインを勉強する機会があった際も、ワインづくりにおいてつくり手が思い浮かべているのは、その土地の郷土料理であることが多いと感じました。これまでさまざまな地域でワインを飲んできましたが、どこに行ってもその土地の料理と非常によく合っている印象があります。
私たち岩の原葡萄園も同じで、つくり手の多くが新潟出身ということもあり、かんずりやかまぼこ、ふき味噌といった新潟の郷土料理との相性は非常に良いです。ほかにも、するめいかの天ぷらや山菜の天ぷら、板わさ、アジフライ、メンチカツなど、日常の食卓に並ぶ料理とも合わせやすいワインを揃えています。
ワインというとチーズや生ハムといった洋食に合わせるイメージを持たれる方も多いのですが、実際にはもっと幅広く、日常の食事とも気軽に楽しめるお酒です。まだ知られていないだけで、実はとてもペアリングしやすい存在だということを、ぜひ知っていただきたいですね。
初めて岩の原葡萄園のワインを飲む人におすすめの商品を教えてください。
ロゼワインですね。ロゼは本当にオールマイティで、普段の食事にも合わせやすいので、ワインライフの入り口としてはとてもおすすめです。
ロゼワインは、どのブランドのものでも比較的に料理と合わせやすいと思います。一方で赤ワインは、味わいを左右する要素が多く、商品によっては好みに合わないと感じることもあります。
例えば、最初に飲んだ赤ワインがたまたま合わなかった場合、それだけで「赤ワインは苦手」という印象を持ってしまう方もいらっしゃいます。でも実際には、その一本が合わなかっただけで、好みに合うワインはきっとどこかにあるはずなんです。ただ、種類が多すぎてなかなか出会えず、そのままワインから遠ざかってしまう…というケースも少なくありません。
そういった意味でも、初めて岩の原葡萄園のワインを飲んでいただく方には、まずロゼワインから気軽に楽しんでいただきたいですね。
地域で循環するものづくりと、新潟から世界への挑戦
フードロス削減や環境配慮について、大切にしている考え方を教えてください。
岩の原葡萄園としては、主に三つの取り組みを行っています。
一つ目は、栽培における剪定枝の活用です。これまでは剪定した枝を廃棄していましたが、以前から細かく砕いて、そのまま畑の肥料として再利用しています。二つ目は、ワインの搾りかすの活用です。ワインづくりの過程では多くの搾りかすが出ますが、それらを発酵させて“たい肥”として熟成し、翌年のぶどう栽培に活かしています。そして三つ目も同じく搾りかすの活用ですが、新潟県立海洋高等学校に提供し、魚のエサとして活用していただいています。ワインの搾りかすに含まれるポリフェノールによって、魚の品質向上や臭みの軽減といった効果も期待されています。
このように、本来であれば廃棄されるものを循環させることで、廃棄量の削減につなげています。結果としてCO₂排出量の削減にもつながるため、環境負荷を抑えるという観点でも重要な取り組みだと考えています。
今後挑戦したいことや、取り組んでみたい新しい試みを教えてください。
やはり海外への挑戦ですね。創業者である川上善兵衛が生み出したぶどう品種を活かして、その発祥メーカーとして、海外でどのくらい受け入れていただけるのかを試していきたいと考えています。
もともと海外で生まれたワインという文化を、新潟で生まれた品種を使ってつくり、新潟発のものとして世界に届けていく。そうした取り組みを通じて、“新潟メイド”の価値でワイン業界を盛り上げていきたいですね。
新潟は、冬になると2〜3メートルもの雪が積もる厳しい環境です。その豪雪を乗り越えて育ったぶどうから生まれる味わいを、より多くの方に届けていけたら嬉しいです。
●詳細情報
名称:株式会社 岩の原葡萄園
住所:新潟県上越市北方1223番地
営業時間:9:30~16:30(ワインショップ)
HP:https://www.iwanohara.sgn.ne.jp/index.html
取材にご協力いただきありがとうございました!
取材撮影 by BOOT