新潟市中央区
maikka ki5
紫竹 野絵/林 のぶ子
東京・下北沢で長年親しまれた名店「アンゼリカ」。その味を受け継ぐ林 のぶ子さんは、紫竹 野絵さんと一緒に小さなパンと焼き菓子の店を2019年にオープン。海の近くで週4日だけ開く店内には、カレーパンやみそパンをはじめ、手作りの焼き菓子が並びます。懐かしさと新しさを届けるその味に込められた想いと、これから描く未来についてお話を伺いました。
アンゼリカの味を受け継ぎ、新潟で描く再出発の物語

パンづくりやお菓子づくりに興味を持ったきっかけを教えてください。
最初に興味を持ったのはお菓子、特にケーキでした。私が子どもだった60年ほど前は、ケーキは年に2〜3回しか食べられない特別なもので、ものすごく憧れがあったんです。その「特別感」がきっかけで、自分でも作ってみたいと思うようになりました。
初めてのお菓子づくりは小学生の頃。家でプリンを作ったのが最初の挑戦でした。うまくできたときの嬉しさは今でも覚えています。その後、16〜17歳になるとチーズケーキを焼くようになり、気がつけばすっかりお菓子づくりに夢中になっていました。その頃のわくわくする気持ちは、今でも私の原点になっています。
「maikka.ki5」を始めるまでの経緯を教えてください。
学生を卒業して最初に就職したのは、お菓子とはまったく関係のない企業でした。でも、どうしてもお菓子づくりを諦めきれなくて、思い切って退職したんです。その後、神戸のパンと焼き菓子のお店で3年間見習いをしながら基礎を学びました。
一度家庭の事情で新潟に戻りましたが、次は友人が鎌倉でパンと焼き菓子のお店を始めることになり、そこに加わって7年間ほどパンとお菓子づくりに携わりました。結婚を機に東京へ移ることになり、夫が下北沢の名店「アンゼリカ」の二代目だったことから、私も一緒に店に入り、そこでパンづくりを続けました。気づけば「アンゼリカ」には30年ほど関わっていたことになります。
けれども、夫と義母が相次いで亡くなってしまい、「一人で続けるのは難しい」と判断して、2017年にお店を閉めることにしました。本当はまだパンやお菓子づくりを続けたい気持ちがあったのですが、どうすればいいのか分からずに迷っていたとき、姉から「実家が空いているから、新潟でやってみたら?」と声をかけてもらったんです。その一言が、大きな転機になりました。
ご縁と支えに導かれ生まれた「maikka.ki5」

新潟で「maikka.ki5」をはじめようと思ったきっかけを教えてください。
姉から「新潟でやってみたら?」と声をかけてもらったとき、正直すごく悩みました。新潟の冬は雪が多いし、曇り空ばかりでどんよりしているし、交通の便も決して良いとは言えません。それでも、「ここなら一人で、ゆっくりお菓子づくりを続けられるかもしれない」と思い、オープンを決意しました。
最初はお菓子だけをやるつもりだったんです。パンは仕込みが大変で、一人で担うにはなかなか難しい。ただ、周りから「パンもやってほしい」という声をいただいたこと、そして「アンゼリカ」を象徴するみそパンやカレーパンを残してもらえたのだから続けたい、という気持ちもあり、パンづくりも再開することにしました。
当初は金・土・日の3日間パンを焼いていましたが、仕込みは夜中の1時から始まり、販売後の片付けや翌日の準備を含めると夕方までびっしり働きづめ。3年ほどはその生活を続けましたが、さすがに限界を感じて、今は土・日の2日間だけパンを販売しています。
「アンゼリカ」のファンだった方がわざわざ訪ねてくださったり、思っていた以上に忙しい日々になりましたが、それでもお客様に喜んでいただけるのは本当に嬉しいことで。新潟でお店をはじめてよかったと、心から思っています。
「maikka.ki5」という店名には、どのような意味や想いが込められていますか?
「maikka(マイッカ)」は、実は私の口癖なんです(笑)。細かいことにとらわれず、「ま、いっか」と前向きに切り替えていく自分らしさを、そのまま名前にしました。
その後につけた「ki5」は、「5つの木」という意味を込めています。オープンのときに支えてくれた身近な人たちが、偶然みんな“木”にまつわる名前だったんです。私の旧姓は「木戸」、結婚して「林」になり、姉たちは「紫竹」と「森」。そしてお店を始める後押しをしてくれた親友が「久保」。こうして振り返ると、本当に不思議なご縁です。
大切な人たちへの感謝の気持ちを込めて、「maikka.ki5」と名付けました。名前を見るたびに、この店は私ひとりで立っているのではなく、多くの人に支えられて生まれたものなのだと、改めて感じています。
心を込めた手づくりを最後まで大切に

日々のパンづくりやお菓子づくりで大切にしていることは何ですか?
一番大切にしているのは「手づくり」であることです。添加物は極力使わず、ベーキングパウダー以外は加えないようにしています。素材選びにも気を配っていて、砂糖は「すだき糖」というきび糖の一種を使っています。やさしい甘さで、体にも負担が少ないんです。
ジャムももちろん手づくりです。長野に住む姉が季節ごとの果物を送ってくれるので、それを煮込んで仕上げています。パンやお菓子に使うだけでなく、瓶詰めにしてお客様にも購入していただけるようにしています。
パンは約20種類、お菓子は約30種類をラインナップ。どれも身体にやさしいものを心がけているので、小さなお子さんからご年配の方まで安心して楽しんでいただけると思っています。
フードロス削減に向けた取り組みや工夫を教えてください。
小さなお店だからこそ、できるだけ作りすぎないように気をつけています。残してしまうくらいなら、売り切れてしまうほうを選ぶようにしているんです。「この日にどうしても欲しい」「たくさん必要」という場合は、電話やInstagramのDMから予約も受け付けています。ロスを減らすために数を抑えているので、できれば2日前くらいまでにご連絡いただければ、しっかり対応できます。
もちろん細かく管理して仕込みをしていますが、それでも余ってしまうこともあります。そんなときは、スタッフや知人に分けて食べてもらいます。せっかく心を込めて作ったものですから、処分することはありません。パンもお菓子も、最後まで大切に食べてもらえるよう工夫しています。
地域に寄り添い、人がつながる温かな店づくり

これから「maikka.ki5」をどのようなお店にしていきたいですか?
まずは、近所の方が食べやすいものをそろえたお店にしていきたいと思っています。このあたりは年配の方が多い地域で、ご近所の方もよく来てくださるんです。最近はハード系のパンが流行っていますが、堅いパンはご高齢の方には食べにくいこともあります。だからこそ流行を追うのではなく、お客様との会話の中から「どんなパンなら食べやすいか」「どんなお菓子がうれしいか」を伺いながら、求められるものを形にしていきたいです。
それから、ここが「つながり」の生まれる場所になったらいいなと思っています。地元がこの町なので、お店を始めてから幼なじみや同級生が訪ねてきてくれることもありましたし、下北沢「アンゼリカ」で職場体験をしていた子が、十年以上たって新潟に来るついでに顔を出してくれたこともありました。そうした縁がまたつながるのは本当にうれしいことです。
小さなお店だからこそ、お客様同士の会話が自然に生まれることもあります。そんなふうに、人と人とがつながり、地域のコミュニティのようにほっとできる場所になっていけたらと願っています。
本記事を読んでいる方へメッセージをお願いします。
私たちは「手づくり」にこだわり、身体にやさしく、どこか懐かしい素朴な味わいを大切にしています。お母さんが子どもに安心して食べさせられるようなパンやお菓子を目指して、ひとつひとつ丁寧に焼いています。
ご自宅用はもちろん、ギフトや手土産などのご相談も大歓迎です。季節によってラインナップが変わることもありますので、Instagramやお電話で気軽にお問い合わせください。お菓子は木~日、パンは土・日の営業です。
ぜひ、足を運んでいただけたら嬉しいです。

●詳細情報
名称:maikka.ki5
住所:新潟県新潟市中央区寄附町4997
営業日 :木曜・金曜 お菓子のみ
土曜・日曜 パンとお菓子
営業時間:10:30〜15:00
HP:https://maikkaki5.com/
Instagram:https://www.instagram.com/maikka.ki5/
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取材にご協力いただきありがとうございました!
finearではこれからも、「つくり手の想いでつなぐ、新潟の未来」をテーマに、生産者の想いを発信していきます!

取材撮影 by BOOT