「つくり手の想い」Vol.6 ―日々のおやつを通じて広がる、温かな人と人との絆―

新潟市北区
四季のお菓子 わらび屋
阿部 敬子

新潟市北区で、和洋菓子やおこわを製造・販売している「わらび屋」。看板商品のロールケーキをはじめ、団子や季節の菓子など幅広い商品を揃え、“日々のおやつを買いに行く場所”として気軽に立ち寄れるお店づくりに励んでいます。しっとりとした食感とやさしい甘さのロールケーキは地元で長く愛され、確かな味わいで多くのファンを魅了。今回は、お菓子づくりで大切にしている想いと、これから挑戦していきたい取り組みについて伺いました。

地域に愛され続ける変わらぬ美味しさ

創業されたきっかけを教えてください。

「わらび屋」は、私の義父が平成元年に立ち上げたお店です。義父はもともと、お菓子屋さんに材料を卸す問屋に勤めており、取引先の菓子店にさまざまな提案をしながらお店づくりに関わっていました。その中で「自分もお菓子づくりをしてみたい」という思いが芽生え、思い切って創業に踏み切ったのが始まりだと聞いています。

ただ、それまでずっとサラリーマンとして働いてきたため、経営の知識は乏しく、開業当初はなかなかお店を軌道に乗せることができず苦労も多かったそうです。

私は嫁いだことをきっかけに、お菓子づくりに携わるようになり、気づけばもう30年近くになります。もともと製菓の経験があったわけではなく、最初はまったくの初心者でしたが、義父や職人さんから学びながら一歩ずつ技術を身につけてきました。今も「より美味しく、より喜ばれるお菓子をつくりたい」という気持ちを大切にしながら日々励んでいます。

日々お菓子づくりに向き合う中で、大切にしていることは何ですか?

一番大切にしているのは、添加物や保存料といった不自然なものをできる限り使わず、素材の持ち味をそのまま活かした、シンプルで安心できるお菓子をつくることです。

そもそも義父がお菓子づくりを始めた約40年前は、今ほど添加物が普及していない時代でした。小麦粉や卵、砂糖といった身近な材料だけで丁寧につくるのが当たり前で、その素朴な味わいこそが「わらび屋」の原点でもあります。

時代が進むにつれ、便利な保存料や添加物が登場し、見た目や日持ちを重視した商品づくりも増えてきました。ですが私たちは、あえて奇抜さや派手さを追い求めるのではなく、昔ながらの味を守り続けることを大切にしています。

その理由のひとつには、創業当初からずっと足を運んでくださっているお客様の存在があります。長年「わらび屋」の味を愛してくださる方々の期待に応え続けたい、その気持ちがあるからこそ、余計なものに頼らず、変わらない美味しさを提供していきたいのです。

これからも「安心して食べられる、素朴でまっすぐなお菓子」をお届けする姿勢を大事にしていきたいと思います。

素材の個性を見極める丁寧な姿勢

お菓子づくりの工程で最もこだわっている部分はどこですか?

私たちが特にこだわっているのは「素材による味の変化をいかに抑えるか」という点です。お菓子はとても繊細で、例えばクリームひとつ取っても、気温や湿度によって状態が大きく変わってしまいます。思った以上に柔らかくなりすぎたり、逆に硬く感じられてしまったり……その日の環境に左右されやすいのです。

だからこそ毎日の天候や室温を見極めながら、配合や温度管理を細かく調整しています。同じレシピであっても「昨日と同じつくり方」では仕上がりが変わってしまうため、常に微調整を繰り返すことが欠かせません。

また、あずきの産地や果物の鮮度といった素材そのものの違いも、お菓子の味に直結します。ロールケーキに使うフルーツの甘みや酸味、和菓子に使うあずきの風味など、素材ごとに個性があるからこそ、それを見極めて安定した味に仕上げることを心がけています。

「どんな日でも、同じように美味しい」と感じてもらえるように――。そのための細やかな調整こそが、私にとって一番大切にしている工程です。

わらび屋さんならではの特徴を教えてください。

「わらび屋」が大切にしているのは、“高級なおつかいもの”ではなく、“日々のおやつ”として気軽に楽しんでいただけるお菓子であることです。子どもが自分のおこづかいで買えるような価格帯であったり、地元の方が夕方にふらっと立ち寄ってお団子やロールケーキを買って帰ったり。そんな日常の風景に自然と溶け込む存在でありたいと考えています。

商品ラインナップや価格設定も、普段から買いやすいことを意識して工夫していますし、接客の際にはお客様との会話をとても大切にしています。中には「え、友だちなの?」と思われるくらいスタッフと仲の良いお客様もいて、そうした温かい雰囲気が「また行きたい」と思っていただける理由のひとつになっていると思います。

帰省の際に「この味が食べたくて立ち寄りました」と声をかけてくださる方も多く、長年にわたり地域に根差して愛されてきたことを実感しています。もちろん、お盆や年末年始には「離れて暮らす家族や友人に贈りたい」というギフト需要や、式菓子としてのご注文もあります。そのようなご要望にも柔軟に応えられるお店でありたいと思っています。

地元食材と人を結ぶわらび屋のお菓子づくり

地元の食材を使ったオリジナル商品について教えてください。

いつ訪れても新しい楽しみを感じてもらえるお店でありたい、そして地元の良さをお菓子を通じて発信したいという想いから、地元食材を活かしたオリジナル商品づくりに取り組んでいます。

和菓子では、夏の定番として涼やかな水ようかんを提供し、季節感を大切に。洋菓子では、看板商品のロールケーキに季節ごとのフルーツを巻き込み、旬の味わいを楽しんでいただけるよう工夫しています。また、夏場には子どもから大人まで人気のジェラートも展開し、幅広い世代に喜んでいただいています。

さらに、地域とのつながりから生まれた商品もあります。たとえば、豊栄トマトを使った「トマトん」。これは豊栄商工会から「地元のトマトを使って新しいお菓子をつくれないか」という相談をいただき、地元農家と協力して開発した一品です。

地域に根ざすお店として、地元の食材や人と一緒に新しい挑戦を続けることも、私たちの大切な役割だと考えています。これからも地域貢献の一環として、こうした取り組みには積極的に協力していきたいと思っています。

フードロス削減に向けた取り組みや工夫を教えてください。

食品を無駄にしてしまうことは、もったいないのはもちろんですが、お店の経営にも直結する大きな課題です。そのため「つくりすぎない」「最後まで活かす」ということを常に意識しています。

具体的には、大量生産するのではなく、販売の状況を見ながらこまめに製造する体制を整えています。店舗内にキッチンを構えているからこそ、必要な分だけをその都度つくることができ、これも「わらび屋」ならではのこだわりです。

また、看板商品のロールケーキは製造過程でどうしても端の部分が出てしまいますが、それを捨てるのではなく、ご購入いただいたお客様にちょっとしたプレゼントとしてお渡ししています。「こんなサービスがあるなんて嬉しい」と笑顔になってくださる方も多く、フードロス削減に加えて、お客様の満足度向上にもつながっています。

「最後まで美味しく味わっていただく」
その工夫の積み重ねが、これからも持続可能なお店づくりにつながると信じています。

人を大切にする姿勢が、愛され続けるお店の土台に

お店を続けていく中で、大切にしていることはありますか?

もちろん「お客様の笑顔」が第一ですが、それ以上に社長が大切にしているのは「スタッフの幸せが一番」という理念です。ここでいう幸せとは、本人だけではなく、その家族まで含んだもの。お店で雇用している以上、スタッフはもちろん、その家族をも支えているのだという意識で経営にあたっています。

社長は日頃からスタッフとのコミュニケーションをとても大切にしていて、「お子さんは元気?」「ご家族はどうしている?」といった家族のことまで気にかけています。その姿勢からも、スタッフを本当に大切に思っていることが伝わってきます。

こうした雰囲気があるからこそ、スタッフは安心して休みが取れ、悩み事も相談しやすい環境が自然とつくられています。働く人の満足度が高いことは、そのまま接客の質にも表れ、お客様への丁寧で温かいサービスにつながっていると感じます。

「わらび屋は、社長に人がついている」と言っても過言ではありません。スタッフとその家族を大切にする経営姿勢こそが、長く愛されるお店の土台をつくっているのだと思います。

本記事を読んでいる方へメッセージをお願いします。

お菓子は、誕生日やおもてなしの席など、人が集まる場の中心にあることが多いものです。そんな大切なシーンで「わらび屋」のお菓子が笑顔のきっかけになり、ひとつでも多くの笑顔を広げる存在になれたら本当に嬉しく思います。

店内ではロールケーキや和洋菓子のほかに、おこわや赤飯、まんじゅうといった商品も販売しています。お祭りや敬老会、学校行事といった地域イベントにも積極的に協力しており、そうした場を通じて新たなご縁やつながりが生まれることも、私たちにとって大きな喜びです。

これからも「地域に寄り添い、皆さんの暮らしのそばにある存在」であり続けたいと思っています。どうぞお気軽にお立ち寄りいただき、わらび屋の味を楽しんでいただけたら幸いです。

●詳細情報
名称:四季のお菓子 わらび屋
住所:新潟県新潟市北区朝日町2-13-22
HP:https://warabiya.my.canva.site/
Instagram:https://www.instagram.com/warabiya_niigata/

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取材にご協力いただきありがとうございました!
finearではこれからも、「つくり手に想いでつなぐ、新潟の未来」をテーマに、生産者の想いを発信していきます!

取材撮影 by BOOT