新潟市西区
太田農園/農業生産法人 melON株式会社
代表取締役 太田 誠
新潟市西区で、「情熱野菜」というブランド名のもと多彩な農作物を育てている「太田農園」。ここでしか栽培されていない赤肉・青肉メロンをはじめ、長ネギや人参、カブ、じゃがいもなど、季節ごとの“旬”を大切にしながら、安全で美味しい野菜づくりに励んでいます。柔らかな食感と甘みの強い野菜は特別栽培認証を多数取得し、確かな品質で多くのファンを魅了。今回は、melON株式会社を立ち上げた代表の太田さんに、農業への挑戦と、美味しさへのこだわりについて伺いました。
想像以上の厳しさに直面した就農の現実

就農されたきっかけを教えてください。
農業は祖父の代から営んでおり、私で三代目になります。ただ、最初に農業に携わったのは私ではなく弟でした。その間、私はアパレル業界で働き、高級腕時計の販売などに携わっていました。
ある時、弟から「農業を続けるのをやめたい」と相談を受けました。ちょうど私自身も「もっと自由に、自分の思うように働きたい」と考えていた時期で、「農業なら自営だからこそ、自分らしく取り組めるのではないか」と思ったのです。
最初はそれほど深く考えずに飛び込んだのですが(笑)、そこから本格的に農業と向き合うようになったのが、就農の大きなきっかけでした。
実際、就農してみてどうでしたか?
実際に農業を始めてみると、想像以上に大変で、「何でも自分でできる」と思っていた自分が少し恥ずかしくなるほどでした。毎朝4時から作業が始まり、農協の規格に合わせて、工場のように黙々と仕事をこなす日々。もちろん、多くの方に自分たちの育てた農産物を届けられることや、個別に選別する必要がないことは大きなメリットでした。
しかしその一方で、自分たちのこだわりを形にできないことに違和感を覚えました。農協に納品する形だけでは、消費者と直接話す機会もなく、本当に求められているものを届けられているのかさえ分からない状況でした。
私はもともと販売員として“モノの価値を伝える”仕事をしていたこともあり、「自分たちの農産物の魅力をもっと発信できる場がほしい」と考えるようになりました。その思いから、高校時代の同級生と一緒に空き家をリノベーションし、2014年に農家レストランをオープンしたのです。
規格重視から顧客視点へ変化した野菜づくり

就農当初の想いは、今どのように変化・成長していますか?
「お客様が本当に求めている農作物をつくりたい」という想いは、就農当初からずっと持ち続けてきました。その気持ちを形にするために、農家レストランではお客様との会話を何より大切にしてきました。レストランでの食事提供だけでなく、収穫体験や直売を通じて直接声をいただく中で、「どんな野菜が喜ばれるのか」「どのように届ければより満足していただけるのか」といったことが少しずつ明確になっていきました。
以前は「規格に合わせてつくること」が最も大切だと思っていましたが、今ではそこに加えて、お客様の声を反映させることを強く意識しています。そうした取り組みの積み重ねが、現在の太田農園のコンセプトにつながりました。気がつけば農園の名前を知ってくださる方が増え、私たちの野菜を楽しみにしてくださるファンも少しずつ広がってきたと感じています。
現在は農家レストランを閉じていますが、振り返ってみると本当にやってよかったと思っています。お客様の声を直接聞き、笑顔に触れることができた経験は、今の農業のあり方や野菜づくりの方向性を考えるうえで大きな財産になりました。
栽培方法や品質管理において、特にこだわっていることを教えてください。
太田農園では、メロン・長ネギ・じゃがいも・人参・かぶを栽培し、「情熱野菜」というブランド名で販売しています。名前の由来にもなっていますが、私たちは作物ごとに「どんな情熱を傾けて育てるか」を意識し、それぞれにテーマを設けて取り組んでいます。
すべてに共通して大切にしているのは「甘さ」です。分かりやすい例で言えば、メロンは糖度15~16度を目指して栽培しており、これは市場に流通する一般的なメロンと比べてもかなり高い数値です。もちろん、どの野菜も甘さを引き出すには手間がかかりますし、熟しすぎれば腐ってしまうリスクもあります。そのバランスを探りながら、何年も試行錯誤を重ねてきました。
さらに、「安心して食べていただけること」も欠かせない要素です。太田農園では新潟県内で最も多くの特別栽培認証を取得しており、農薬や化学肥料の使用をできる限り抑えた栽培を徹底しています。こうした取り組みにより、安全性と美味しさの両立を実現できていると感じています。
当時、周りの農家でこうした栽培に取り組む人はほとんどおらず、自分たちで学び、工夫を重ねて道を切り開いてきました。甘さと安心へのこだわりこそが、私たちの「情熱野菜」を支える大きな柱になっています。
お客様の声が太田農園を成長させる力に

フードロス削減について取り組んでいることがあれば教えてください。
まず大切にしているのは、できる限り規格外品を出さないようにすることです。そのためには栽培技術を高めることが欠かせないので、日々勉強を重ねながら取り組んでいます。
とはいえ、規格外品をゼロにするのは難しいのが現実です。そこで私たちは、直売所でお得な価格で販売する工夫をしています。多少形が不揃いだったり傷があったりしても、鮮度の良いうちに販売することで、本来の美味しさをしっかり味わっていただけます。見た目に少し難があっても、品質や味わいは変わらないんです。
また、まだ技術が十分でなかった頃には、農家レストランで規格外品を料理に活用していました。お客様に楽しんでいただける形で提供することで、無駄なく使い切る工夫をしてきたのも、当時の大切な経験のひとつです。
お客様から届いた声の中で、印象に残っているものはありますか?
お客様とお話しする機会は今も多く、さまざまなご感想をいただきます。その中でも特に印象に残っているのは、「どうしてこんなに甘いの?」「太田農園のメロンを食べたら、もうほかのメロンは食べられない」という声です。
自分たちが時間と手間をかけて取り組んできたことが、お客様の満足につながっていると実感できる瞬間は、やはり一番嬉しいですね。「お客様の求める野菜をつくれている」と確信でき、これからの大きな活力にもなります。
私たちは自己満足で野菜を育てているわけではなく、あくまでお客様に喜んでいただくことが原点です。これからもその想いを大切にしながら、期待に応えられる野菜づくりを続けていきたいと思います。
「情熱野菜」のファンに応える量と質の両立

今後、取り組んでみたいことや目指していることはありますか?
これからは、農業への想いを引き継いでくれる人を育てていきたいと考えています。実は、melON株式会社の社員は家族を除くと全員が「非農家」出身なんです。「農業に挑戦したい」「食料を守りたい」という気持ちを持つ人たちと共に学び合いながら、新潟の農業を未来につなげていきたいと思っています。これまでの経験や知識よりも、“想い”を大切に、仲間づくりを続けていきたいですね。
また、今後10年以内に施設栽培(ハウス栽培)の規模を現在の倍に広げたいと考えています。露地栽培(ろじさいばい)は自然の恵みを活かせる一方で、天候など外的要因の影響を大きく受けてしまいます。安定して質の高い野菜を届け続けるためにも、少しずつ施設栽培を増やしていきたいと思います。
ありがたいことに、太田農園や「情熱野菜」のファンが年々増えています。中には「買いたいのに買えなかった」という声をいただくこともありますが、量を増やすだけでは質が落ちてしまうリスクもあります。だからこそ、量と質の両立を目指し、そのバランスを大切にしながら、これからもお客様に喜んでいただける野菜づくりを続けていきたいと考えています。
本記事を読んでいる方へメッセージをお願いします。
私たちは、野菜ごとに栽培のテーマを設け、一つひとつに手をかけながら大切に育てています。これからも、その想いを込めた野菜づくりを続けていきたいと思っています。ぜひ太田農園の野菜を手に取って、私たちの情熱を感じていただけたら嬉しいです。
野菜は直売所のほか、新潟市内のスーパーやコープデリでもお求めいただけます。直売所の情報は公式Instagramでも発信していますので、ぜひチェックしてみてください。
●詳細情報
名称:太田農園/melON株式会社
住所:新潟県新潟市西区神山167-1
HP:https://akatsukashuraku.stores.jp/
Instagram:https://www.instagram.com/ohtanouen.passion.vege/
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https://finear.jp/about/use/
finearの公式Instagramでも情報発信中!
https://www.instagram.com/finear_press/?hl=ja
取材にご協力いただきありがとうございました!
finearではこれからも、「つくり手に想いでつなぐ、新潟の未来」をテーマに、生産者の想いを発信していきます!

取材撮影 by BOOT