新潟市江南区
仙六農園
九代目当主 佐藤干城さん
北海道・札幌市から新潟市へIターンし、現在は新潟市江南区で「仙六農園」を営む九代目当主、佐藤干城(さとう たてき)さん。長く受け継がれてきた農園を未来へつなぐために、日々、梨づくりに向き合う佐藤さんに、農業を志したきっかけや、ものづくりへの想い、そしてフードロスへの取り組みについてお話を伺いました。
祖父の想いと大学での学びが導いた農業の道

農園を始めたきっかけと、当初の想いを教えてください。
大学時代、「地域資源の活用」に関する講義を受けたこと、そしてちょうどそのタイミングで、新潟で代々農業を営んできた祖父から「後継者がいなくて困っている」と相談を受けたこと――。この二つが重なったことが、農園を始める大きなきっかけとなりました。
それまでは、地域活性化や農業に特別な関心があったわけではありません。ただ、講義を通じて地域の可能性に触れ、「自分にも何かできるのでは」と思うようになっていたところに、祖父からの話があったことで、挑戦してみたいという気持ちが自然と生まれました。
とはいえ、農業も経営もまったくの未経験だったため、まずは父の姉夫婦が営む農園に入り、3年間現場で基礎から学びました。そしてその後、江戸時代から続く祖父の「佐藤農園」を受け継ぎ、屋号を「仙六農園」と改めて新たな一歩を踏み出しました。
当初は、「これまで地域に根づいてきた伝統を大切にしながら、新しい要素を取り入れて、より良い形にしていきたい」という想いを持って取り組んでいました。ただ、今振り返ると、自分たちの農園を立ち上げ、軌道に乗せることで精一杯だったというのが本音です。
その想いは、今どのように変化していますか?
農園を始めた当初の想いに加えて、「新潟の農業全体を盛り上げたい」「農業に挑戦したい人を増やしたい、そして応援したい」という気持ちが強くなってきました。
実際に農業に携わってみて感じたのは、想像以上に大変で、休みがほとんど取れないという現実でした。それでも、農業は本当に魅力のある仕事です。だからこそ、より多くの人にこの世界に挑戦してもらいたいと思うようになりました。そのためには、まずは自分自身が「しっかり働き、しっかり休む」ことを体現し、持続可能で無理のない農業の在り方を示していけたらと考えています。楽しく働きながら、きちんと休む。その姿を見せることで、農業の魅力がより多くの人に伝われば嬉しいですね。
そして変わらない想いとしてあるのが、「常に挑戦し続けること」です。あえてゴールを設定しないことで、その時々で自分がワクワクする選択をしながら、これからも挑戦を重ねていきたいと思っています。
丁寧な管理と直売で実現する鮮度と質

仙六農園としてのこだわりや強みを教えてください。
生育状況を丁寧に見極めながら肥料管理を行い、もっとも良い収穫のタイミングと提供のタイミングを逃さないことを心がけています。直売所を併設しているため、収穫したその日のうちに新鮮な農産物をお客様にお届けできることは、大きな強みだと考えています。
もう一つの強みとして、「木との会話力」があると感じています。果樹と向き合いながら細かな変化を捉え、木の状態に合わせた管理を行うことで、「長部優位性(ちょうぶゆういせい)」を意識した栽培を実践しています。
長部優位性とは、木の先端部分にしっかりと養分が行き渡る状態をつくること。これにより、樹勢を保ちながら質の良い実を育てることができるため、果樹栽培において重要な考え方の一つとされています。仙六農園では、この長部優位性を意識しながら、木一本一本と丁寧に向き合っています。
農業には終わりがなく、常に学び続ける必要があると感じています。今でも分からないことがあれば、外部の有識者に相談しながら、より良い状態を目指して試行錯誤を重ねています。木と真摯に向き合い、日々の積み重ねを大切にすることが、私たちのこだわりであり、仙六農園の強みです。
フードロス削減に対する想いや取組内容を教えてください。
農業に取り組んでいると、どうしても少しの傷や見た目の違い、売れ残りなどによって販売が難しくなる農産物が出てきてしまいます。どれも同じように手間と愛情をかけて育てているからこそ、出荷できずに廃棄せざるを得ない状況はとても心苦しく感じています。
そのため仙六農園では、フードロス削減の取り組みとして、自社直売所でのアウトレット販売や、加工品業者への提供を行っています。それでも全てを売り切ることは難しく、フードロスは今後も取り組むべき重要な課題だと考えています。
また、直売所にいらっしゃるお客様に対して、特別にアウトレット品を強調することはしていません。「どの農産物も自信を持って育てたものです」という姿勢のもと、アウトレット品であっても通常品と味や品質に差はないことを丁寧にお伝えしています。少し見た目が違うだけで価値を下げずに、きちんと美味しさを届けることも、フードロス削減の一歩だと考えています。
苦境を乗り越えたお客様と家族の力

実際にお客様から届いた声で印象に残っているものはありますか?
併設の直売所があることで、日々たくさんのお客様と直接お話しさせていただいています。その中でも特に印象に残っているのは、「応援しています」「仙六農園の梨が一番おいしい」といった励ましの言葉をいただけたときです。そういった声を聞くたびに、農園を続けていて本当によかったと実感します。
特に、自分自身で「今年は例年ほどおいしく育たなかったかもしれない…」と感じていた年に、変わらず応援やお褒めの言葉をいただいたときは、胸が熱くなりますね。農産物の味は、気温や天候など自然環境に大きく左右されます。毎年同じように手間と愛情をかけて育てていても、どうしてもコントロールしきれない部分があります。
それでも、私たちの姿勢や取り組みに共感し、変わらず購入し応援してくださるお客様がいることは、何よりの励みです。そうした声に支えられて、また一年、農業に真摯に向き合おうという気持ちになれます。
これまで農業をやってきてつまずいたことはありましたか?
正直なところ、これまでたくさんの壁にぶつかってきました。特に農業も経営もまったく分からない状態でスタートしたので、最初の頃は本当に手探りでした。中には詐欺のような被害に遭ってしまったこともありますが(笑)、私のスタンスは「まずやってみて、そこから学ぶ」というものだったので、あらゆることに挑戦してきた結果でもあります。
一番大きな経営の危機は、梨が不作で、例年の3分の1ほどしか収穫できなかった年です。正直、「もう無理かもしれない」と思ったほど厳しい状況でした。それでも、補助金の活用に挑戦したり、異業種とのつながりを広げたりと、試行錯誤を重ねながら前に進み続けました。挑戦を止めなかったことで、なんとか乗り越えることができました。
そんな困難な時期を支えてくれたのは、従業員を含めた家族の存在です。北海道から一緒に新潟へ来てくれて、地元に知り合いもいない中で私を支えてくれた家族。そんな家族を守れるのは自分しかいないという想いが、何よりの原動力になりました。
あの苦しい時期を乗り越えられたからこそ、「大抵のことはなんとかなる」と、今では前向きな気持ちで挑戦を続けられています。
新潟の梨を次なる地域ブランドに

今後の夢や目標を教えてください。
新潟は四季の変化がはっきりと感じられる土地であり、その豊かな気候が育む果物、特に梨には大きな可能性があると感じています。今後は、この新潟の四季が織りなす“最高の梨”を、お米に続く新たな地域ブランドとして確立していけるよう、力を尽くしていきたいと考えています。
新潟県内の方々に愛されるのはもちろんのこと、県外にもその魅力を広く発信し、農産物を通じた地域の活性化にも貢献できればと願っています。
この記事を見ている皆様にメッセージをお願いします。
まずは何より、「新潟の果物は本当に美味しい」ということを多くの方に知っていただきたいです。とくに和梨は、一口食べていただければ、そのみずみずしさと甘さにきっと驚かれると思います。まずはぜひ、手に取って味わってみてください。
2025年の仙六農園の直売所は、8月15日頃のオープンを予定しています。最新情報は公式LINE・X・Facebookで発信しているのでぜひチェックしてください。
私たちは現在、約20品種の和梨を栽培しており、品種によって風味や食感が大きく異なります。「どれを選べばいいか分からない」という方も、どうぞお気軽にご相談ください。お好みに合った品種をご案内いたします。ぜひ一度、新潟の美味しさに触れに来てください。皆さまにお会いできるのを、心より楽しみにしております。
●詳細情報
名称:仙六農園
住所:新潟県新潟市江南区二本木1-6-38
HP:http://www.senroku.info/
LINE:https://page.line.me/975ggajp?openQrModal=true
finearダウンロードはこちら!
https://finear.jp/about/use/
finearの公式Instagramでも情報発信中!
https://www.instagram.com/finear_press/?hl=ja
取材にご協力いただきありがとうございました!
finearではこれからも、「作り手に想いでつなぐ、新潟の未来」をテーマに、生産者の想いを発信していきます!

取材撮影 by BOOT