「つくり手の想い」Vol.9 ― 継ぐこと、変えること。麹づくりと向き合う日々 ―

胎内市
五十嵐こうじ屋
五十嵐 篤

胎内市で100年以上にわたり、味噌や麹、甘酒などをつくり続けてきた 五十嵐こうじ屋。もともとはお米や大豆の加工を中心に営まれていましたが、代替わりをきっかけに流通販路を広げ、現在は小売りを主軸としたものづくりへと歩みを進めています。

昔ながらの無添加・手づくり製法を守り続ける理由とは何か。日々の食卓に寄り添う味噌や麹に、どのような想いが込められているのか。今回は、その歩みとこだわりについてお話を伺いました。

酒造メーカーでの経験を経て、麹づくりの原点へ

麹づくりの世界に入ったきっかけや、この仕事を選んだ理由を教えてください。

中学卒業後、上越にある醸造系の高校へ進学しました。もともと親から「いずれはお店を継いでほしい」と言われていたこともあり、麹づくりの世界に入ったのは、ごく自然な流れだったと思います。

ただ、高校卒業後すぐに家業を継いだわけではありません。親の働く姿を間近で見てきたからこそ、家業で生計を立てることの大変さも感じていました。そこで一度外の世界を知ろうと、酒造メーカーに就職し、約10年間勤めました。

組織の一員として働く中で、ものづくりの現場に関わるやりがいを感じる一方、当然ながら自分のやりたいことだけを貫けるわけではありません。そうした経験を重ねるうちに、「つくり手として、自分のやりたい形でものづくりに向き合うなら、家業を継ぐという選択肢もあるのではないか」という思いが芽生えたことが、今の道へ進む大きなきっかけになりました。

「五十嵐こうじ屋」を家業として継いだときの想いや、当時の状況を教えてください。

せっかくお米や大豆の加工を行っているのだから、それらを活かした商品をつくり、より多くの人に味わってもらいたい。家業を継ぐにあたって、まずそんな想いがありました。長くお酒づくりの世界に身を置いてきたこともあり、最終的な形が「お酒」から「味噌」へ変わるだけで、同じ麹づくりの延長線上にある仕事だと捉えていました。そのため、商品が変わることへの抵抗はほとんどなかったですね。

また、組織で働く中で強く感じていたのが、「お客様のニーズに寄り添った商品づくりがしたい」「時代の流れに合わせて、スピード感をもって変化していきたい」という想いでした。今振り返ると、より直接的にお客様と向き合いたい気持ちがあったのだと思います。

もともと私は、日々試行錯誤を重ねる“実験のような毎日”がとても好きなんです。麹づくりは、お米の品種や田んぼの状態によって、同じ工程を踏んでも同じ仕上がりにはなりません。「こうすれば、もっとうまくいくのではないか」と考えながら工夫を重ね、自分なりの理想に近づけていく。その積み重ねの先で納得のいくものができたときは、やはり大きな喜びを感じます。

原料から麹まで。五十嵐こうじ屋が大切にしていること

日々の味噌や麹づくりの中で特に大切にしていることやこだわりは何ですか。

いろいろありますが、なかでも最も大切にしているのは「原料」です。塩を除き、使用する原料はすべて新潟県産。お米については、自分たちで育てたものを使っています。父が事業農家として米づくりを行っており、昨年からは私自身もその仕事に携わるようになりました。自分たちでつくったお米だからこそ、品質をしっかりと見極めながら、コストと品質の両立ができていると感じています。

もう一つ大切にしているのが、ものづくりの「再現性」です。そのため、事業はあえて自分の目が行き届く範囲にとどめています。規模が大きくなりすぎると、どうしても細部まで見られなくなってしまいます。製造工程だけでなく、流通、そしてその先まで、自分の目で確かめられることを重視しています。

ものづくりは、自己満足で終わってしまっては意味がありません。私たちが向き合っているのは、あくまでお客様の食卓です。お客様が「美味しい」と感じてくれて、はじめて商品として成立する。その想いを軸に、日々の味噌や麹づくりに取り組んでいます。

「五十嵐こうじ屋らしさ」はどこにあると思いますか。

やはり、しっかりとつくり上げた「麹」にあると思います。私たちの商品はすべて、麹の出来が味の決め手です。麹を丁寧につくることで、甘みや旨み、そしてコクがしっかりと引き出されます。その積み重ねが、味噌の味わいに直結していると感じています。

実際にお客様からは、「少ない量でもしっかり味が出る」「溶けやすくて、味噌汁に使いやすい」といった声を多くいただいています。日常的に使うものだからこそ、使いやすさや満足感はとても大切です。そうした点を評価していただけることが、何より嬉しく、わたしたちらしさを表現できていると感じますね。

お客様の声と発酵の知恵がつくる、ロスのない店づくり

フードロス削減に向けた取り組みや工夫を教えてください。

実は、味噌づくりにおいては、ほとんどフードロスが出ないんです。原料となるお米や大豆には等級があり、味噌づくりに使えないものは、畑から私たちの手元に届くまでの過程で振り分けられます。ただ、そうして弾かれたお米や大豆であっても、同じように味噌をつくることはできます。そう考えると、味噌づくりそのものが、フードロス削減につながるものづくりだと感じています。

味噌自体について言えば、実質的には消費期限がなく、極端な話、きちんと管理していればいつまでも食べられるものです。もちろん賞味期限は設けていますが、期限が近づいたものについては、別の形に加工して活用しています。麹についても同じ考え方ですね。

また、味噌づくりの工程では、みそ桶の底に汁が溜まります。以前はその汁を廃棄していたのですが、実はとても美味しく、醤油の代わりに使うと驚くほど味に深みが出ることに気づきました。「こんなに美味しいものを捨てるのはもったいない」と思い、製品化したのが今の商品です。

そうした工夫を重ねた結果、現在はほとんどロスのない状態で味噌・麹づくりに取り組めています。

お客様との印象的なエピソードを教えてください。

直売所をオープンしてから、お客様と直接お話しできる機会がぐっと増えました。日々の会話の中で印象に残っているのが、「スーパーなどで味噌を買うとき、パッケージだけでは味のイメージがしづらく、実際に使ってみたら思っていた味と違うことがある」という声です。

その言葉をきっかけに、できるだけパッケージや商品POPで、味の特徴や使い方が伝わる情報を発信するようになりました。直売所では実際に味見ができるようにし、オンラインショップでは味見ができない分、お得な価格で試せるセットを用意しています。

こうした取り組みは、すべてお客様とのやりとりから生まれたものです。納得したうえで商品を選んでいただきたい、そして購入後の「思っていたのと違った」という後悔を、少しでも減らしたい。お客様の声を起点にしながら、私たちはお店のあり方を少しずつ変化させています。

寄り添い続けるものづくりと、これからの挑戦

今後挑戦したいことはありますか。

これからも、お客様一人ひとりにしっかり寄り添いながら、自分が頑張れる間は、変わらず喜んでもらえるものづくりを続けていきたいと思っています。ただ、今の状態に満足するのではなく、変化する世の中のニーズにもきちんと目を向け、新しい商品づくりにも挑戦していきたいですね。

一方で、食を取り巻く環境や暮らし方は少しずつ変わっていきますし、お客様のニーズも時代とともに変化していきます。そうした変化を丁寧に感じ取りながら、味噌や麹の可能性を広げる新しい商品づくりにも、少しずつ挑戦していきたいと思っています。

ただ、何よりも大切にしたいのは、安定した品質の商品を、無理のない形で届け続けることです。ものづくりの基盤をしっかりと整え、いつ手に取っても変わらない味を届けられる状態を保つ。その土台づくりに、これからも力を注いでいきたいです。

そして、家族や従業員の健康を守ることも、私にとっては大切な挑戦の一つです。安心して働き、暮らしていける環境があってこそ、良いものづくりができると思っています。そんな当たり前のことを大切にしながら、これからも五十嵐こうじ屋らしい歩みを続けていきたいです。

本記事を読んでいる方へメッセージをお願いします。

私たちは、「直売所」というかたちでお店を構えています。近所の方はもちろん、ふらっと立ち寄れる“お茶のみスポット”のような感覚で、気軽に足を運んでいただけたら嬉しいです。

店頭では、甘酒や味噌などの試飲・試食もご用意しています。商品について直接話を聞きたい方も大歓迎ですし、麹の割合を変えるなど、ご要望に応じて可能な範囲でのカスタマイズにも対応しています。

まずは一度、五十嵐こうじ屋の味や雰囲気を知ってもらえたら、と思います。

●詳細情報
名称:五十嵐こうじ屋(直売所)
住所:新潟県胎内市加賀新256−1
営業時間:10:00〜17:00
HP:https://www.tedukurimiso.com/

finearダウンロードはこちら!
https://finear.jp/about/use/

finearの公式Instagramでも情報発信中!
https://www.instagram.com/finear_press/?hl=ja

取材にご協力いただきありがとうございました!
finearではこれからも、「つくり手の想いでつなぐ、新潟の未来」をテーマに、生産者の想いを発信していきます!